駒ヶ岳・津貫蒸溜所

当ソサエティは、19世紀にルーツを遡り、スコットランドのシングルモルトスタイルの発展に貢献した日本のウイスキーメーカーのウイスキーを紹介できることを嬉しく思う。

マルス駒ヶ岳蒸溜所

マルス駒ヶ岳蒸溜所とマルス津貫蒸溜所は、それぞれ1985年と2016年に設立された、日本ウイスキーの世界では比較的新しい存在かもしれない。しかしその伝統は、1872年に九州南部で創業した本坊酒造が1909年に始めた 焼酎にまで遡る。同社は1949年にウイスキーの蒸溜免許を取得し、東京近郊の山梨での蒸溜所の設計を岩井喜一郎に依頼した。岩井自身は、摂津酒造で一緒に働いていた竹鶴政孝の師匠であったことから日本のウイスキーの創始者の一人とみなされている。当時摂津酒造は真のスコットランドスタイルのウイスキー造りを始めたいと考えていた。岩井は社長の阿部喜兵衛の理解を得て、竹鶴をスコットランドに派遣しグラスゴー大学で有機化学を学ばせた。その後、スペイサイドのロングモーン蒸溜所、ボーネスのグレーン蒸溜所、そしてキャンベルタウンのヘーゼルバーンで研修を重ね、ウイスキーの知識を可能な限り吸収した。

竹鶴は1920年にスコッチウイスキーの知識とともにスコットランド人の新妻リタ・コーワンを携えて日本に帰国したが当時は第一次世界大戦後の不況の影響により、残念ながら摂津酒造はスコッチスタイルのウイスキー製造を断念していた。そこで竹鶴はスコットランドのウイスキーに関する知識を活かして寿屋(後のサントリー)に転じ、京都近郊に日本初のウイスキー蒸溜所である山崎蒸溜所を建設するプロジェクトを指揮した。その後1940年に竹鶴は北海道余市に自らの蒸溜所を設立し、ニッカウヰスキーが誕生した。

一方、岩井喜一郎は摂津酒造を辞め、本坊酒造に入社し、竹鶴のスコットランドでのウイスキーづくりを記録したノート(所謂竹鶴ノート)を基に1960年の山梨ワイナリー・蒸溜所の設立に尽力した。しかし1972年に同蒸溜所は操業停止となりウイスキー蒸溜は本業からはずれた。しかし1985年に中央アルプス山麓の長野県に新しい施設を建設することにより本坊酒造はウイスキーづくりに回帰した。

マルス津貫蒸溜所

マルス駒ヶ岳蒸溜所

本坊酒造の新しい蒸溜所(以前は「マルス信州蒸溜所」、現在は「マルス駒ヶ岳蒸溜所」)の立地は、山岳地帯の気候がウイスキーづくりの鍵と考えられていた。海抜798メートルに位置する日本有数の高地蒸溜所として、澄んだ冷気と山霧に包まれた環境で、アルプスの雪解け水が花崗岩層で濾過された軟水を使用している。岩井喜一郎の遺産も一役買っており、旧山梨蒸溜所にあったオリジナルのポットスチルはマルス駒ヶ岳蒸溜所に移設され、現在は全く同じ形状のものに交換されている。

マルス駒ヶ岳蒸溜所では、蒸溜技師である川上邦裕氏の指揮のもと、年間18万リットルの純アルコール(LPA)を生産している。長時間の発酵にはステンレススチールと木製ウォッシュバックを併用し、軽やかで果実味豊かなスタイルのウイスキーを目指している。熟成は主に元バーボン樽で行われるが、同社の山梨ワイナリーで使用されたワイン樽や、同じ敷地内にある駒ヶ岳ビール工場で使用されたビール樽も使用される。この施設は最近全面的に改装され、新しい蒸溜設備、熟成庫、ビジターセンターができた。

マルス津貫蒸溜所

日本アルプスの麓にある既存の蒸溜所がライトスタイルのウイスキーを製造するために設計されたとすれば、南九州に建設されたふたつ目の蒸溜所は「深みがありエネルギッシュ」なウイスキーをというビジョンに基づいて決定された。2016年、本坊酒造の本拠地である鹿児島に「マルス津貫蒸溜所」がオープンした。この地の気候は、駒ヶ岳蒸溜所とは著しく対照的である。九州の南端に位置するマルス津貫は、温暖で湿度の高い環境にあり、この気温が熟成をより早める。九州の南端に位置するマルス津貫は、温暖で湿度の高い環境にあり、気温がより急速な熟成をもたらす。
同蒸留所はより重質の原酒を得るためにウォームタブコンデンサーを使用しており、蒸溜所マネージャーの草野達郎氏は、発酵時間、チョコレートやキャラメルなどのニュアンスの出せる特別な大麦、地元産の大麦など様々な試行を行ってきた。熟成もまた重点が置かれており、環境が大きく異なる3つの別々の場所で行われる。暖かい鹿児島、寒い駒ヶ岳、そしてユネスコの世界遺産に登録された亜熱帯の生態系をもつ屋久島。

マルス駒ヶ岳蒸溜所とマルス津貫蒸溜所から、ソサエティメンバーが何を期待できるかについて、同社はこう語る。
「2つの蒸溜所と3か所の熟成場があることで、私たちは多種多様なウイスキーを製造することができます。ソサエティメンバーの皆様には、蒸溜所や熟成場の豊かな自然環境を楽しんでいただき、それぞれの個性を感じていただければと思います。」

ソサエティから近い将来、この2つの個性的な日本の蒸溜所からウイスキーが世に送り出されることになるだろう。

マルス駒ヶ岳蒸溜所のポットスチル

マルス駒ヶ岳蒸留所

場所:長野県宮田町
創業:1985年
経営者:本坊酒造株式会社
ポットスチル:ウォッシュスチル6,000リットル×2基、スピリッツスチル:8,200リットル×2基
発酵 6基:木製3基、ステンレス製3基
生産能力:180,000LPA
発酵時間:72~96時間
倉庫:ラック式

マルス津貫蒸溜所

マルス津貫蒸溜所

場所:鹿児島県南さつま市
設立:2016年
オーナー:本坊酒造株式会社
ポットスチル:ウォッシュスチル6,000リットル×2基、3,300リットルスピリットスチル×2基
発酵:ステンレス5基
生産能力:180,000LPA
発酵時間:72~96時間 倉庫:ラック式

*この記事は2024年4月に掲載されたもので、情報はその当時のものとなります。

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